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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)4626号 判決

原告

〓岡安太郎

被告

橿棒薫 外一名

主文

被告等は原告に対し各自金一萬万円とこれに対する昭和二九年一〇月一〇日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用はこれを四分しその一を原告の、その余を被告等の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り原告が被告等に対し各三萬円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

成立に争のない甲第七乃至一〇号証、被告石井本人尋問の結果(但し後記信用しない部分を除く)を綜合すると、被告石井は昭和二八年七月二〇日午前一一時頃小型貨物自動四輪車大四―八一〇四号を運転して時速三五粁で大阪天王寺区勝山通四丁目二八番地先市電軌道併用道路南行軌道上を南進中左前方約二七米附近で同道路を東から西へ自転車に乗つたまま横断しようとした原告を発見したので警笛を鳴らしてその侭前進したところ自動四輪車に気づいて停車していると思つていた原告が停車することなく軌道近くまで進行して来たのを数米の拒離に近づいていた時発見した被告石井は急拠右にハンドルを切つて自転車の前面を通り抜けようとしたが及ばず運転台ドアーキヤツチ附近を原告の自転車に接触せしめ原告を自転車とともに路上に顛倒せしめたことを認めることができる。被告石井本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。

このような場合には自動四輸車の運転手たるものは自己の進路上の横断者の動向に充分注意すべき義務があるのであつて単に警笛を鳴らしたのみで事足れりとなしその後の横断者の動向を注視することを怠るが如きことがあつてはならないこと勿論であるから右事故は被告石井の過失によつて発生したものといわざるを得ない。

被告等は原告にも亦過失があると主張するからこの点について考えて見る。

原告が前記市電軌道併用道路を横断せんとするにあたり自転車に乗つたままであつたことは前段認定のとおりであるところ、自転車に乗つたままで軌道併用道路を横断することは(交通整理の行われている交差点の場合は別論として)自転車を降りてこれを押しながら横断する場合と比較して進退が一層不自由であるから、原告としては特に左右を警戒し道路上を疾走し来る自動車等に充分注意し安全を確かめた上で横断すべきであるにかかわらず、前記各証拠を綜合すると原告はかかる注意をなさず漫然横断し被告石井の運転する自動四輪車が真近に迫るまで全然これに気がつかなかつたことがうかがえるのであつて、右は横断者の払うべき注意を著しく欠くものというベく、本件事故の発生につき原告にも亦過失があつたと認めるのが相当である。

当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一、二号証、成立に争のない甲第四号証の一乃至四、第五号証、第八号証、証人辻岡タマ、八百留吉の証言を綜合すると原告は本件事故のため第八、九肋骨骨折、右胸部挫傷、右側頭部挫創等の傷害を蒙り大阪警察病院で一ケ月間入院加療をうけさらにその後一ケ月間同病院に通院して治療をうけたこと及びその間の治療費として附添費用等を含め金五萬円以上の出費を要したことを認めることができ、原告が小学校卒業後植木の売買及び庭師を家職とし本件事故当時一ケ月月収入二五、〇〇〇円程度で、扶養家族は妻タマ、五男宏、五女道子を有し、健康にして家庭の責任者として働いていたことは被告等の認めるところであり、前記証人辻岡タマ、八百留吉の証言を綜合すると原告は本件事故の後は一ケ月のうち一〇日位しか働けないようになり精神上多大の損害を蒙つたことを認めることができる。

原告は被告石井に対し治療費の賠償として金三四、〇三〇円と慰藉料金二五萬円の支払をもとめるものであるが前記原告の過失を斟酌して被告石井の原告に対して支払うべき賠償額は金一五萬円を相当と考える。

次に本件事故当時被告橿棒が橿棒モータースの商号のもとに自動自転車の販売代理店とその修理業を営んでいたこと、被告石井は被告橿棒に雇われていたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一〇号証、被告石井本人尋問の結果を綜合すると本件事故当日被告石井は自動四輪車を運転して自動車修理に必要な部分品を買入に赴きその帰途に本件事故を惹起したものであることを認めることができる。

被告橿棒は、同被告はかねてから被告石井に対し自店の車を使用し決して他人の車を使用しないよう厳重に禁止していたが被告石井は被告橿棒の不在中勝手に他人から修理のため預つていた自動四輪車を運転し本件事故をおこしたのであるから被告橿棒は被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意をなしたから損害賠償の義務はないと抗争するけれども仮に被告橿棒の主張するような事実があつたとしてもそれだけでは未だ同被告が被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意をなしたということはできないから、同被告の抗弁は採用できない。

そうだとすると民法第七一五条により被告橿棒は原告に対し被告石井と同額の損害賠償の義務ありというベきである。

よつて原告の請求中被告等に対し各自金一五萬円とこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和二九年一〇月一〇日から支払ずみまで年五分の割合の損害金の支払をもとめる部分は正当としてこれを認容すべく原告のその余の請求は失当として棄却し民事訴訟法第八九条第九二条第一九六条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 山田鷹夫)

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